岐阜へ移住し、30年続く観光農園を事業承継

恵那市 ぶどう りんご 独立自営就農

中野 周平さん

出身:山口県
就農年月:2023年4月
栽培している農作物:ぶどう(ナイアガラ、レッドナイアガラ、ふじみのり)、梨(幸水、豊水、新高)、りんご(フジ、王林、つがる、紅玉など)、ラフランス
現在の圃場規模:190アール

インタビュー

Interview

夢だった仕事と両立できる道として、農業を選択

 私は大学で農学部を卒業後、SEや林業などさまざまな仕事を経験してきました。その間に、四国でのお遍路(四国八十八か所霊場めぐり)の旅へ行く機会があり、その素晴らしさに心を打たれて「もう1度すべての霊場を1度で回り切る“通し打ち”をしよう」と、仕事を退職して夢を実現。イラストを添えてその様子をまとめた手記を出版することが決まったのを機に、ずっと趣味で続けていたイラストが本格的に仕事になるかもしれないと考えていました。

 そんな時、友人から声をかけられたのが、恵那市にある観光農園・豊楽園での仕事でした。豊楽園は、定年退職した人が生きがいを持って働く「シルバー生きがい農園」としてスタートしましたが、若い世代にとっても都会にはない生きがいを感じて働ける場にしたいと、若い働き手を募集していました。田舎暮らしにも興味があった私は、「農業なら、雨で作業ができない日や作業後の時間に、イラストの仕事を両立できるかもしれない」と感じ、2020年に岐阜へお試し移住。フルタイムのアルバイトとして一から果樹栽培を学び、基本的な技術を身につけ、気づけば約2年半が経っていました。作業に従事する中で、果樹栽培のやりがいやおもしろさ、そして可能性を感じていた私に、先代のオーナーが「ぜひ若い人に後を継いでほしい」と声をかけてくれ、2023年4月に事業を承継することになりました。

 豊楽園は、ぶどう・梨・りんごを栽培し、収穫シーズンは果物狩りができる観光農園を行っています。敷地内には直販所もあり、採れたての果物のほか、100%天然果汁ジュースやジャムも販売しています。現在、私は先代オーナーや以前からいるスタッフに教わりながら、農作業のかたわら、経理や勤怠管理、営業などの事業経営全般を担い、日々奮闘しています。

自然や地域の人々とふれあえる暮らしを満喫

 実は、果樹栽培は体だけでなく、思った以上に頭を使う仕事です。たとえば、樹の形を整えていく剪定作業では、その年の枝ぶりを見ながら、枝の切り方や目指す形に向けて枝を固定する誘引の角度などを決めていきます。この時の出来が樹の成長を大きく左右するため、3~5年後の樹の姿を考えながら、全体のバランスを整えていきます。数年経って樹形がスッキリとしてくると、農薬散布の際に農薬が隅々まで行き届いたり、摘果しやすくなったりと、作業効率も高まります。さらに、剪定によって樹勢が良くなれば品質が揃ったり味も良くなったりするなど、剪定はすべてのベースとなる大切な作業です。反対に、剪定の仕方が悪いと2~3年をかけて直さなければならない場合もあります。難しさやプレッシャーもありますが、自分で樹の成長をコントロールできることに、やりがいを感じています。

 また、豊楽園では観光農園として果物狩りも実施しているため、出荷だけでは得られないダイレクトな感想を聞くことができる点も、魅力の1つです。「おいしかった」「また来年も来ます」など、訪れた方からいただく声がモチベーションアップにつながっています。

 果樹園で働いている時はもちろんのこと、普段の生活でも田舎で暮らす喜びを感じています。地域との関わりが薄い都市部の生活と違い、田舎では相互扶助の習慣が根づいているため、この地域の一員として暮らしているという感覚が色濃く感じられるうれしさがあります。私も、地域で行われる会合に参加したり、果樹園で採れた果物をお裾分けしたりと、積極的に地域へ溶け込むようにしています。最近では消防団に入り、同じ世代との出会いや交流を楽しんでいます。

果樹園をよりよい状態で維持・継承するために

 これからの目標は、30年続いてきたこの果樹園をしっかりと維持していくこと。園内には老木化してきている樹があったり、気候変動による温暖化でりんご栽培が難しくなってきたりと、長い歴史の中でさまざまな変化が起こっているため、新たな品種の検討やりんごの樹の削減など、長期的なプランを見据えた新植や改植を進めていきたいと考えています。

 毎年、新たな苗を植える野菜と違い、果樹栽培では新植をすることがなかなかありません。大がかりな新植や改植は、この果樹園にとって創業以来のこと。私自身も経験がないので不安はありますが、この果樹園を継いだ使命だと思い、役割を果たしていきたいです。これまで果樹園を守ってきたスタッフや、毎年利用してくださるお客さんから「こんな農園になったらいいな」という農園の姿を聞き、無理のない計画をしていこうと思っています。

OFF TIME

休日や夜の時間を活用して副業や趣味を

 通常、農園の仕事は16時頃に終わるため、夜はイラストの仕事にあてることができ、うまく両立ができています。体を動かす農業と在宅ワークとの組み合わせは、最適だと感じています。繁忙期以外は、空いている平日に休みを取って、趣味の登山や温泉へ出かけられるのも魅力です。