地域の財産である柿畑を多くの人とともに守り継ぐ
杉山 千保子さん
出身:岐阜県多治見市
就農年月:2022年1月
栽培している農作物:柿(富有、太秋、早生富有)
現在の圃場規模:150アール
インタビュー
Interview
義父や地域の人たちが育んだ柿畑を受け継いで
私は夫の父が持っていた柿畑を夫婦で受け継ぎ、柿農家として就農しました。それまで柿栽培を手伝ったことはあり、「自分もやってみたい」と強く思っていましたが、義父からは「柿は儲からないからやらない方がいい」と言われていました。しかし、その義父も高齢になり、病気を患って畑仕事ができなくなったため、それまで夫婦で行っていたレストラン経営を辞め、柿栽培を引き継ぐことにしました。最初は義父が所有していた60アールの畑からスタートしましたが、生計を立てていくためにはより広い畑を手がけることが必要と判断し、その年に100アールまで拡張。2年目にはさらに近隣の畑を借りて、150アールまで圃場を広げました。
果樹栽培は、新たに木を植えてから実るまでに数年がかかるため、新規就農が難しいといわれていますが、実際に就農してみると、「高齢になって維持できないので、引き継いでほしい」という柿農家の人が次々と現れ、畑を引き継ぐという方法での新規就農は難しくないと感じています。周囲の柿農家さんも、新たに就農することを喜んでくれて、栽培方法を親切に教えてくれます。柿は非常に寛大な植物で、先代の人たちが育てた木は、素人のような私たちが引き継いでも、しっかりと実をつけてくれます。何十年も守られてきた柿の木は、地域の大切な財産。それを伐ってしまうことなく守り継ぐことで、地域の農業を盛り上げていきたいと思っています。
「楽しくて稼げる農業」を体感してほしい
1年目で約2倍の広さに圃場を拡大した私たちにとって、最も重要な仕事は、忙しい時期に作業を手伝ってくれる人を集めることでした。そこで、まずは知り合いに声をかけ、収穫時期や5月に行う摘果の時期など、繁忙期に農業を体験してみてもらうことにしました。すると、普段は味わうことができない農業の仕事に、多くの人が充実感を感じ、口コミで「やってみたい」という人がどんどん増えていきました。今では、自然に触れたい人や農業をしてみたい人など、延べ50人ほどが手伝いに来てくれます。
今後、地域の農家が高齢化していく中、空いた柿畑を引き継ぎたいと思っても、私たちの力だけではとても維持していくことができません。たくさんの人に「農業は楽しい」と思える体験をしてもらえば、その魅力が必ず人づてに伝わり、就農したい人を増やすことにつながると考えています。手伝ってくれる人を通じて、「大変で儲からない」という農業のイメージを「楽しくて稼げる」に変えていきたいです。
現在、収穫した柿はJAに出荷するほか、キレイに磨いたものを贈答品として、道の駅などで販売しています。昼間は収穫や選果などの作業で時間がないため、磨いて箱に詰める作業は夜になってしまいますが、贈答用の柿の販売は価格が非常に高く、大切な収入源になっています。農業は、自分のやり方次第でどれだけでも可能性が広がる点が、魅力の1つ。忙しくても、自分次第で収入も夢も広がることが、大きなモチベーションになっています。
次世代に向けて、持続可能な柿栽培の仕組みづくりを
今後は、さらに土地を増やして、新たなチャレンジをしていきたいと考えています。それが柿のポット栽培です。柿の木は樹高が高く、脚立や高所作業車を使った作業が必要なため、高齢になると作業が難しくなります。しかしポット栽培は、脚立などが必要のない低めの木を栽培でき、持続可能な畑をつくることができます。新たにつくる柿畑で収穫ができるようになるには、何十年もかかり、自分たちは完成を見ることはないかもしれませんが、先輩農家さんが育ててくれた柿の木を使わせてもらっている立場として、次世代に向けて一から畑づくりに着手し、高齢になっても続けていける仕組みを構築していきたいです。
春と秋にリフレッシュタイムを確保
収穫時期は10月から12月中旬にかけてですが、栽培に必要な作業は年中あるため、なかなかまとまった休みは取れないのが現状です。しかしその中でも、少し作業の手が空く4月と9月には、2週間ほど旅行に行くなどして、自由に過ごす時間を確保しています。