社会経験を生かして、いちご栽培と直売所をスタート
伊藤 直弥さん
出身:愛知県豊田市
就農年月:2018年6月
栽培している農作物:いちご(濃姫)
現在の圃場規模:19アール
インタビュー
Interview
個人の力を試してみたいと、農業にチャレンジ
私は大学院を卒業後、電子事業やセラミック事業などを手がける大垣市内の企業に入社し、18年間仕事に従事してきましたが、「いつかは組織ではなく個人の力で仕事をしてみたい」という思いを抱き、43歳で退社を決意。子どもの頃から生き物や植物を育てることが好きだったこともあり、転身先として農業を選びました。
インターネットで新規就農の情報を探していたところ、JA全農岐阜いちご新規就農者研修所を知り、1年2カ月の研修を受けることに。研修所で学んだ高設ベンチ栽培は、従来の土耕よりも体の負担が少なく、コンピューターで環境が自動制御され、多くがマニュアル化されているため、新規就農者でも着手しやすい農業だと感じました。研修期間は、とにかくすべてが新鮮で、企業では味わえない充実感を味わうことができました。
研修中は、1人10アールの圃場を任され、先生のアドバイスを受けながら、いちご栽培の基礎を習得。実際に就農する前に、失敗から多くのことを学び、次の糧にできる貴重な経験をさせてもらいました。研修を終了後は、大垣市内に土地を借りて就農。現在19アールの圃場で、濃姫を栽培しています。
土地や気候に合わせて液肥を独自ブレンド
高設ベンチ栽培は、培養土に苗を植え、液体肥料(液肥)を与えて育てる養液栽培です。一般的に液肥は、始めから必要な成分がブレンドされたものを購入する場合が多いですが、私は大学で化学を専攻していた経験と知識を活かして、肥料の成分を個別に選定し、独自でブレンド。地下水の成分を調べるなど土地に合ったものを追求し、さらにその年の気候条件を見極めながら、毎年配合する成分や量を調整しています。
私が栽培を行う大垣西地区は、日照が少なく雪も多いという特徴があります。そのため、耐寒性があり生育の強さを持つ濃姫を選びました。いちご栽培のリスクはやはり病害虫ですが、早期に発見して対策を講じれば、重症化を抑えることができます。そのため、株の状態が少しでも悪くなったことに、いかに早く気づくことができるかが、非常に大切です。わずかな変化を察知するためには、経験はもちろん、日々の観察力が重要。常に手を抜かずにやるべきことを行えるよう、圃場で株に向き合う毎日です。
地元においしいいちごを届ける直売所をオープン
私は、いちご栽培を始めようと決めた時から「おいしいいちごを地域の人に提供して、喜んでもらいたい」という思いを抱いていました。そこで就農後1年目から、圃場のすぐ近くで直売所「直ファーム」をオープン。真っ赤に熟した摘みたてのいちごを販売しています。
直売所は、消費者から味についてフィードバックをもらえる貴重な場所。「おいしかった」「去年より味が少し薄く感じた」など、いただいた意見はすべて喜びや反省点になり、大きな励みになっています。今後も消費者とコミュニケーションがとれる場として、直売所を維持していきたいです。
私は社会人として企業に就職後に就農しましたが、企業に勤めていた際に学んだ知識や経験は、現在の営業や品質管理への姿勢など、さまざまなことに役立っています。特にいちご栽培は、栽培方法や設備、就農への支援などが整っており、新規就農しやすい作物。農業で起業したいと考えている人は、気持ちが固まるまでに資金を貯めたり、人脈をつくったりと、さまざまな経験を積むことをおすすめします。
岐阜県が生んだオリジナル品種第1号「濃姫」
「濃姫」は、1988年に「アイベリー」と「女峰」を交配して育成された、岐阜県第1号のオリジナル品種です。大粒でやや長い円錐形が特徴で、甘味と酸味のバランスがよく、後味がスッキリとしています。ツヤがある鮮やかな赤色と味の濃さから、岐阜県ゆかりの戦国武将・斎藤道三の娘で、後に織田信長の正室となった濃姫の名が付けられました。早いものは11月中旬頃から収穫が始まり、12月~3月をピークに、5月中旬頃まで収穫ができます。