農業・酪農・加工・販売の循環型農業に挑戦

郡上市 独立自営就農

松井 穂波さん

出身:岐阜県下呂市
就農年月:2016年3月
飼育している家畜:乳牛(ブラウンスイス、ジャージー)、ヤギ

インタビュー

Interview

北海道で6次産業化を行う農家に出会い、酪農の道に

 私は、卒業後に地元企業へ就職しようと商業高校を選びましたが、2011年に起きた東日本大震災を機に、食について興味を抱くようになりました。高校卒業が近くなった頃、肉牛になる子牛を育てる繁殖農家の父が「自分が心を動かされた場所に連れて行きたい」と、昔父が研修をしたことがある北海道の酪農農家へ連れて行ってくれました。その農家では、乳製品の加工・販売やレストラン経営まで手がけており、育てた牛から絞った牛乳から他の製品がつくられる過程を見て、私は酪農家になりたいと思いました。

 その後、酪農が学べる八ヶ岳中央農業実践大学校へ進学し、牛の飼育管理からチーズやアイスクリームなどの乳製品加工まで勉強。卒業後は、放牧酪農を学びたいと思い、福井でヤギの放牧を実践している家族経営の酪農家のもとで、1年間研修を受けました。さらに、畜産で出た堆肥を活用する循環型農業にも興味を持ち、下呂市で有機栽培をする野菜農家でも1年間研修をさせてもらい、野菜栽培の基礎を身につけた後、実家の牛舎の一角で酪農家として就農しました。

就農2年目で加工・販売までのサイクルを実現

 現在は、牛乳としてではなく加工品にするのに、乳脂肪分が高く口当たりが滑らかな生乳がとれるジャージー種2頭と、乳たんぱく質に優れチーズ作りに適したブラウンスイス種4頭、ヤギ3頭を飼育。生乳は1日140L搾ることができ、30Lを加工品に、110Lを父が飼う子牛に与えています。ヤギからは1日6Lを搾り、チーズに加工しています。

 乳牛はとてもデリケートで、暑さに弱く高温時は種がつきにくかったり、なかなかエサを食べなかったりと、就農当初は悩みが尽きませんでした。しかし、毎日自分で乳を搾り、異変に早く気づけるよう、顔つきをしっかりと観察して対処することで、5年目の今は牛も落ち着いてきました。生き物を扱うのは大変ですが、出産の楽しみや毎日ふれ合う中で成長を感じられる喜びは、畜産ならではのやりがいだと思います。

 就農2年目には、萩原町内に手作りの乳製品を販売する店をオープンしました。畜産と製造・販売の仕事を両立するのは大変でしたが、翌年からは何とか自分のペースを掴むことができ、週3日ほど店で飲むヨーグルトや7種類のチーズを販売するほか、イベントにも出店しています。

放牧に、乳製品を楽しめる飲食店と、夢は広がる

 私が住む萩原町は北海道や長野と違い、山が近く土地面積が限られるため、牛の放牧が難しい地域です。そのため、今はヤギのみ放牧をしていますが、いずれは牛も放牧して育てるのが夢です。代わりに現在は、牛の飼育で出た堆肥を用いて、両親とともに牧草を栽培。それをサイレージにして牛の飼料にすることで、循環型農業を実践しています。

 また、今は加工した乳製品を販売していますが、将来的には私が酪農を目指すきっかけとなった北海道の酪農農家さんのように、飲食店を開きたいと思っています。最近は、徐々に作るチーズの種類も増えてきているので、チーズを使ったスイーツや軽食を味わってもらえる店ができればと考えています。

 酪農は、生き物を扱うため完全な休みはなかなか取れませんが、自分のやりたいことができ、返ってくるものも大きい仕事だと思います。これからもモチベーションを高く持って、この仕事を楽しんでいきたいです。

コラム

農業の収益向上や地域活性化にもつながる「6次産業化」

 6次産業化とは、第1次産業(農業)で得た農畜産物を、第2次産業(製造業)である食品加工で製品化し、第3次産業(小売業)の流通や販売まで手がける取り組みです。地域で育まれた資源に新たな付加価値を生み出すことで、農家が収益をアップさせられるほか、地元で雇用が生まれるなど地域の活性化につながるため、国も支援を打ち出して6次産業化を後押ししています。